Watana Bear's journey of life

旅するしろくま

清々しい風が吹く季節に楽しむ妄想

 コロナ禍のテレワーク生活をしていると、マンションの近隣の「音」に気持ちが引っ張られることが多々あります。

 ファミリータイプのマンションなので、子供のいる核家族がほとんどです。窓を閉めていると、隣人はいるのかいないのかわからないほど静まり返っているので、逆に不気味さを感じてしまうほどですが、春と秋になると各々窓を開けるので「筒抜け」になるわけです。

 息子の部屋とは押し入れを挟んで隣接するという、年ごろの青年にとってはうれしい設計。でも、隣人とはたとえ防音処理がされていようとも、隔てているのは壁一枚。

 息子の部屋から聞こえる声だと思い返事をすると、実は隣人の旦那さんの声だったということも稀にあります。

 そんなマンションに移り住み5年目。気づけば夜な夜な赤子の声が聞こえてきていた部屋は静まり返り、拙い話し方で「どうして?」攻撃をしていた子が、ランドセルを背負って走り回るほど時は流れました。

 他人の子ってどうしてこう成長が早いのでしょう。すっかりわたしはお祖母ちゃん気分です。

 

 先日、下の階のどこからか男性が怒鳴る声と、就学前後の子どもの鳴き声がひびきわたりました。あまりの騒ぎに、近隣の窓やカーテンが開く音が続いたほどです。

 父親なのか、兄なのか、家族構成がわからないので怒鳴り声だけでは関係性はわかりません。平和な世の中、ちょっとした怒鳴り声にもナーバスになり、虐待を懸念してしまいます。頻繁に聞こえてくるわけではないので、気にかけながらも様子を見ることにして、妄想を始めます。

 父親による度を超した(感情先走り型の)しつけ。大事にしていたフィギアを壊された父親が子供に向けた嘆きという名のしつけ。大事にしていたフィギアを壊された兄(高校生)が小学生の弟に向けた悲痛の叫び。これからデートだというのに、牛乳をこぼされた・・・(以下省略)

 いずれにせよ、一時の感情が先走っているだけのことに違いない。

 

 幸いわたしの部屋の左右上下は、穏やかな家族ばかりです。

 片側の子どもは癒し系の声を持ち、ほっこりする(時にはクスリと笑う)内容の質問をよくする子でした。最近は小学校に上がり、ベランダでミニトマトを育てることに夢中です。滅多に大人の声は聞こえてこないのですが、年に数回、親の知人が遊びにきては「晩餐」の音が響く普通のご家庭です。

 もう片側のご家庭は現代的なご家庭。子どもはコロナ禍直前に誕生し、最近ようやく言葉が聞こえるようになりました。先日夜泣きに対する気遣い的な菓子折をいただいたけれども、実際わたしは子供の泣き声をうるさいと思ったことはなく、ある意味「父親の声」の方がうるさいと感じる程度です。

 うるさいというのは、不快で迷惑という意味ではありません。ほっこりしたり、にやにやしたり、時には笑ったりすることばかりなので、しあわせのおすそ分けをいただいている感覚です。いや、きれいに表現しすぎました。正直に言うと楽しんでいます。

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 朝の「OKグーグル~」に始まり、彼は遊び唄をよく歌います。最近は歩き始めた娘に、いろんなものを見せたい一心で、頻繁に「ワンワン見に行こうか?」など猛烈アタックしまくります。普通に「お散歩にいこう」と語り掛ければいいのに、その溺愛たっぷりの甘えた声は「おじさんがペットに対して赤ちゃん言葉を使う」より滑稽です。

 壁一枚隔てたプライベート空間は、きっと会社の同僚、友人たちにも見せない一面だということがわかります。それを、音だけですが楽しめるのですから、だれにも教えられません(書いてますが)。

 先日初めて、否定的な言葉を発しているのが聞こえてきたのですが「ダメ、ダメダメ~、なんでよー?ダメダメ~」。数年前のギャグのような、甘えた「ダメ」です。甘えているのか叱っているのか判別できませんが、ちゃんと理由を説明しているようで。その辺りまでは筒抜けないのがもどかしい。

 冒頭の「一時の感情」を向ける男性とは、180度正反対。

 こんな風に愛されて育った娘は、どんな女子高生になるのでしょうか。

 いつの日か「うぜーな、くせーから近寄るな」などというのでしょうか。いや、無口で、黒縁の眼鏡をかけて、こっそりベッドの下にBLの本を隠し持ったりするのかしら?。10年以上も先の世の中が、どんな風になっているかは想像もできないけれど、渋谷や新宿を徘徊し、おばちゃん(わたし)の朝散歩と彼女の帰宅が重なったりしちゃうのかしら?

 失礼極まりない妄想で、ご本人には絶対に言えないけれど、わたしは隣の家族に癒され、自分の孫のように娘の成長を楽しんでいます。

 隣人の名誉回復のため、現実的な想像をしてみると「ポロシャツ+チェックのミニスカ制服にラクロスのラケットを担いでおしゃれなチャリで通学するポニーテールの娘」になりそうな、そんな健全を絵にかいたような雰囲気のご家庭です。

 いろんなご家庭を、音だけで妄想する。

 逆に我が家の音は、どのほど漏れていて、どのほど妄想されているのだろう?

 集合住宅の音事情、ボリュームも会話の中身も、気を付けなければいけませんね。

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