Watana Bear's journey of life

旅するしろくま

叶えることができなかったわたしの夢

 小学生の卒業文集に記載した、将来の夢はふたつでした。

  • 声優
  • 幼稚園の先生

 声優についてですが、正しくはナレーターです。もう少しこだわった言い方をすれば「本を朗読する人」でした。

 きっかけは、長期休みの時に見ていた、NHKの教育テレビ(現在のEテレ)の番組です。なんのセットもないスタジオで、椅子に座った女優さんがある物語を朗読していました。物語の情景が、ところどころスタジオの背景に影絵で表現されており、素敵な声と不思議な空間に、完全に引き込まれていました。また、ある時はアニメーションに朗読のナレーションをつけていたり、動かない挿絵風のイラストに朗読を付けていたりと、様々な形態の朗読を視聴したのを覚えています。

 それから毎日のように真似をして、国語の教科書や家にある本を音読していました。徐々に、どうしたら本を読む仕事ができるんだろうと思い、調べていくうちにナレーター・声優という職業にたどり着いたわけです。

 当時はまだナレーションを専業にしている方は少なく(今も?)、声優・アナウンサー・俳優の方の仕事の一部だったように思います。

 アニメもよく見ていたので、声優になることに抵抗を感じることはなく、すぐに「将来の夢」に掲げることになったのですが、早くも自分には声優業は無理だと気づくことになります。

 きっかけは、某アニメ雑誌の付録に付いてきた、アニメ映画の台本です。見たこともない映画の台本を、これからアテレコする人かのように毎日読み込みました。ふと、壁にぶつかります。たった一言のセリフが表現できません。

「・・・」

 話の流れから、この一言はどんな風に発するのだろう。「・・・」なのだから言葉はないのかもしれない。でも、わざわざ「・・・」とかいてあるから、何かを表現するはず、ということだけは小学生のわたしにも分かりました。でも、その何かがわからない。

 正解を求めて、サントラレコードを購入しました。当時のサントラは曲だけでなく、今でいうところのドラマCDのような部分も入っていました。台本を見ながら聞いていくと、声優さんが発した「・・・」の部分は、わたしが想像することもなかった表現方法でした。すぐに、わたしには無理だ、こんな難しい演技もしなきゃいけないなんて、到底無理だ!と、どん底に突き落とされた気分になりました。

 その後、声優になることは諦めましたが、文集に掲載したのは、叶わなかった夢を葬る場所が欲しかったからです。

 

 高校卒業後、進路を決める時に少し足掻きます。絵本を読む側の夢は、小学生の時に葬り去ったけれど、読まれる側になりたいと思ったのです。

 絵本作家になるべく、専門学校へ進学します。でも、現実は卒業後の就職先が玩具や文具メーカーの企画・キャラデザインの仕事が多く、実際に絵本に携わる就職先はありませんでした。

 夏を過ぎたあたりから、モヤモヤし始めます。作る側も楽しいけれど、絵本を読む人になりたかったんだよな・・・と、徐々に授業もサボりがちに。ふと、別の教室で行われていた、ベビーシッター科の授業に遭遇しました。あれ?幼稚園の先生も絵本読むよね?わたしのもう一つの夢は、どこ行っちゃったんだろうと我に返ります。なんとも遠回りなことをして、原点回帰です。

 親に迷惑をかけました。専門学校を中退、帰郷し再受験です。その後、無事卒業し、時を経て保育士として絵本を朗読することができました。

 

 先日、あのころ叶えることのできなかった夢が、凝縮されている動画を見ました。尊敬する声優さん、やっぱ敵わないよ絶対にと思ってしまいます。

 

お時間のある時にどうぞ。(約22分)


【絵本 読み聞かせ】 『チックタック〜約束の時計台~』(声:戸田恵子)

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